まちづくりの観点で重要な指標のひとつが、地域経済循環率です。

少し分かりづらい指標なので、この記事では地域経済循環率がどういう定義なのか、またどのように調べるのかを整理しておきます。

地域経済循環率の確認方法

地域経済循環率は、RESAS(リーサス)というサイトで誰でも確認できます。RESASは、内閣官房と経済産業省が提供している無料のウェブサービスで、人口、産業、消費といった地域のデータを市区町村単位で見られます。

地域経済循環マップの「地域経済循環分析」を開くと、「地域経済循環図」が表示されます。地域のお金の流れを、生産→分配→支出→生産と一巡する 3 段階で示した図です。

地域経済循環図の3段階。町で生み出したお金(生産)が住民や会社の所得(分配)になり、使われ(支出)、また生産に戻る。地域経済循環率は生産と分配の関係を示す(※イメージ)

このうち、生産と分配の関係を 1 つの数字にしたものが、地域経済循環率です。

最新のデータは 2022 年で、市区町村単位や都道府県単位で確認できます。たとえば、群馬県の桐生市は 75.9%、隣の太田市は 121.8% と出ます(当社は群馬県に本社があるので、この記事では群馬の市を例に使います)。

RESASで表示される地域経済循環率の例。桐生市75.9%、太田市121.8%。同じ指標でも市によって大きく違うが、高いほうが良い町なのかはこの数字だけでは分からない

「循環率」という言葉的に、高い方が良いと誤解されそうですが、そういうことではありません。市内で生み出したお金だけで、住民や会社の所得をどれだけ賄えているかを示す数字です。 計算方法については、次の節で説明します。

地域経済循環率の計算式は「生産 ÷ 分配」

RESAS では、地域経済循環率を次の式で計算します。

地域経済循環率 = 生産(付加価値額)÷ 分配(所得)× 100

地域経済循環率の計算式。生産(付加価値額)を分配(所得)で割り、100を掛ける

生産(付加価値額)と分配(所得)の意味

生産は、その地域にある事業所が 1 年間に生み出した付加価値です。売上高そのものではなく、売上から原材料費などを差し引き、事業所の活動によって新たに生まれた価値を集計します。

分配は、地域の住民や企業に帰属する所得です。市内の事業所から支払われる給与や企業所得だけでなく、市外へ通勤する住民が持ち帰る給与、年金や交付金などの流入も含みます。反対に、市内の事業所で生まれた所得が、市外から通う人の給与や市外の本社への送金として出ていく場合もあります。

地域経済循環率が「自立度」と呼ばれる理由

RESAS のマニュアルは、この指標を「『生産(付加価値額)』を『分配(所得)』で除した値であり、地域経済の自立度を表しています」と説明しています。環境省の手引きも同じく「自立度」と呼んでいます。行政サービスや住民生活が自立しているかという意味ではありません。住民が受け取っている所得を、自分の町の生産でどれだけ賄えているかという意味です。

賄えていない分は、市外から入ってきています。この記事で繰り返し出てくるのは、その「賄えていない分」の話です。

循環率80%の町と120%の町は、何が違うのか

単純な例で考えます。

地域経済循環率が120%の町と80%の町を、生産と分配の大きさで比べたイメージ。どちらも所得水準や暮らしやすさまでは示さない

ある町の分配所得が 100 億円で、市内の生産が 80 億円なら、地域経済循環率は 80% です。差額の 20 億円は、市外通勤の給与、年金、財政移転などを含む、市外からの所得流入によって埋められています。

生産が 120 億円、分配所得が 100 億円なら 120% です。市内で生まれた所得の一部が、市外から通う人の給与や市外の企業への分配などとして町の外へ出ている側になります。

100% は、生産と分配が同額になる境目です。

低いのは悪いことではない。ただし「自分で動かせない部分」は大きい

差額を埋めているのは、市外から入ってくる所得です。市外へ働きに出る人が多い町や、高齢者の多い町では、この流入で分母が膨らみます。市外で稼いだ給与も、制度から受け取る年金も、市内の生産から出たお金ではないので、分子には入りません。それでも住民の所得なので、分母にだけ積み上がります。だから循環率は下がります。

これは町の性格であって、住民の所得や生活の質が低いという話ではありません。

ただ、その流入元——通勤の給与、年金、交付金——は、どれもその町が自分の判断で増やしたり守ったりできません。通勤の給与は雇う側の業績と働き手の数しだい、年金と交付金は制度と人口構成しだいです。つまり循環率の低さは、いまの暮らしを支えているお金のうち、自分たちで動かせない部分の大きさを表しています。

さきほどの「地域経済循環率は自立度を表す」とは、これのことです。

地域経済循環率でとらえられないことと、別の測り方

地域経済循環率は住民の買い物(支出)を見ていない

最初に見た循環図に戻ります。循環率が使うのは、3 段階のうち生産と分配の 2 つだけでした。

同じ3段階のうち、循環率が使う生産と分配の2つと、使っていない支出。買い物や投資の行き先は支出に入る(※イメージ)

3 つ目の「支出」に入っているものの一つが、住民の買い物です。地域経済の話でよく出る「地元で買い物をすればお金が町に残る」は、この 3 つ目の段階の話で、循環率はそこを見ていません。

だから、循環率が高い町でも、買い物は外へ出ていることがあります。並べると、平気で逆を向きます。

地域経済循環率と民間消費の流出入は逆を向くことがある。太田市は循環率121.8%だが民間消費は−15.3%、安中市は113.7%で−27.1%、前橋市は94.0%で+11.1%

太田市は循環率 121.8% に対して民間消費の流出入率が −15.3%、同じ群馬県の安中市は 113.7% に対して −27.1%。どちらも生産が所得を上回る市でありながら、差し引きで住民の買い物は市外へ出ています。前橋市は反対に、循環率 94.0% でも民間消費は +11.1% で、市外からの買い物のほうが多くなっています。

地域経済循環率と一緒に見る 4 つの指標

このように、循環率はあくまで一つの指標です。いま見た消費の流出入も含めて、たとえば次の 4 つを一緒に見ると、地域の状況がより見えてきます。

循環率と一緒に見る4つの数字。生産の産業別内訳、所得の流入元、民間消費の流出入、民間投資の流出入

  1. 生産の産業別内訳:何で稼いでいるのか
  2. 所得の流入元:通勤の給与(雇用者所得)と、年金や交付金などのその他所得の、どちらが大きいのか
  3. 民間消費の流出入:買い物はどこでされているのか
  4. 民間投資の流出入:設備投資はどこへ向かっているのか

このあたりについては、また別の記事でまとめたいと思います。

施策の効果を測るなら「経済波及効果分析」

「この施策で地域経済にどれだけ効果があるのか」を知りたいときは、道具そのものが変わります。環境省は、現状を三面から見える化する「地域経済循環分析」とは別に、施策の事前・事後評価ができる「経済波及効果分析」のツールを公開しています。循環率は、効果を試算するための数字ではありません。

経済効果という数字そのものの読み方は、以下の記事にも書きました。

基礎編 「経済効果100億円」はどこへ消えたのか?──まちづくりと地域経済循環 taplicobase.jp

まとめ:地域経済循環率で何を問えるのか

循環率が低い町は、暮らしのお金の一部が外から入ってきている町です。中身は、市外の会社に通う人の給料、年金、交付金。どれも、市役所が頑張れば増えるという種類のお金ではありません。

だから私がこの数字を見て考えるのは、「この流入は、あと何年もつのか」です。通勤先の会社が人を減らせば給料は減ります。年金は高齢者の数、交付金は制度と財政のしくみで決まり、どちらも市が増やせるお金ではありません。それが減ったとき、減った分を市内の仕事で稼げる形になっているか。

いま住んでいる街の状況を、循環率という視点を出発点としてみてみると、面白い気付きがあるかもしれません。

この指標を使って、実際に群馬県内の 12 市を比べてみました。ぜひご覧ください!

比較編 群馬の12市を地域経済の観点で4つに分類してみた【2022年 RESASデータ】 taplicobase.jp

参考資料